定年延長に伴い退職金制度を変更することは可能ですが、労働者の不利益とならないよう慎重に対応する必要があります。退職金の算定基礎期間を企業の裁量で定めることは裁判例でも認められていますが、不利益変更とみなされる可能性があるため、労使協議が重要です。
裁判例では「退職金の算定基礎となる勤続年数は企業の裁量で決められる」としており(大阪第一信用金庫事件、大阪地判 平15・7・16)、また「定年延長により退職金の支給時期が繰り下げられても、不利益変更には該当しない」とする判例もあります(協和出版販売事件、東京高判 平19・10・30)。したがって、定年延長後の5年間を退職金の算定対象外とし、60歳時点の金額を維持しつつ65歳で支給すること自体は法的に問題ありません。ただし、以下の点に留意する必要があります。
1. 労使協議の実施
退職金制度の変更は労働条件の重要な要素であり、労働者に不利益と受け取られる可能性があるため、事前に労働組合や従業員代表と協議し、合意を得ることが望ましいです。
2. 就業規則の明確化
変更を実施する場合、就業規則に明記し、労働基準法第89条に基づく適切な手続きを経る必要があります。支給対象期間、支給額、支給時期などを明確にし、従業員への周知を徹底することが求められます。
3. 不利益変更への配慮
裁判例では「定年延長による就業期間の変更が直ちに不利益変更に該当するわけではない」とされていますが、従業員の受け取る退職金額が実質的に減少する場合は、不利益変更とみなされる可能性があります。そのため、分割支給や利息付与などの措置を講じることで、不利益を軽減することが望ましいです。
4. 法改正の影響
令和7年4月より、65歳定年制がすべての企業に適用される予定であり、70歳定年制の努力義務も令和3年4月1日から施行されています。将来的な高年齢者雇用対策も考慮し、退職金制度の設計を進める必要があります。
5. 他社の対応状況
日本経済団体連合会の2023年調査によると、「70歳までの高年齢者就業確保措置」を実施済みの企業は28.1%、検討中の企業は17.5%という結果が出ています。他社の動向を参考にしながら、従業員の雇用継続に向けた制度を検討することが重要です。
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